超音波検査室 >> 検査の進め方 >> 被験者への配慮
 まず、はじめに
 超音波検査の基礎
 検査の進め方
    被験者への配慮
    疾患を見つけたとき
    腫瘤性病変を
          見つけたとき
    超音波特有の
          サインと用語
    検査報告書の作成   
 正常例の画像
 実際の症例


超音波の達人への近道
それは自分の本を持つ事


腹部関連の本
頚部関連の本
乳腺関連の本
心臓関連の本










 超音波検査は他の検査と違う特徴をいろいろと持っています。



その中の一つに「被験者のすぐ横で検査をする」という特徴があります。
つまり、被験者を検査室の中に誘導してから、検査が終わって被験者が検査室を後にするまで
すぐ近くで会話をする事になるのです。



この事は、検者にとってメリットにもデメリットにもなります。



メリットとしては、患者に既往歴や症状などを聞きながら検査を進められることです。
実際に被験者から情報を得る事で、発見するべき疾患へのヒントを得る事ができるのです。
時にはヒントどころか答えが出てくるときもあるのです。



私が働いている病院の教授が言っていました。
正確に細かくアナムネ(問診をする事)をとれば、診断は数種類の疾患に絞る事ができるし、
時には確定診断さえ可能である、と。
アナムネしながら検査ができるのは非常に大きなメリットと言えるでしょう。



逆にデメリットになってしまう事は、被験者にいろいろと聞かれる事でしょう。
被験者は超音波モニターを観ても何のことやらわかりません。
では、検査中は何をしているでしょう?



私の経験から思うことは、2つあります。
一つは、超音波モニターに表示されている画像を理解できていなくても、モニターを見続けている被験者がいます。
もし、検査の最中にフリーズした画像内で、検者が大きさを測りだしたら被験者はどう思うと思いますか?



被験者は「きっと、何か異常が見つかったから計測しているんだ」と思うと思いませんか?
そういう場合は、結構な確立で「その大きさを測っているのは何ですか?」と聞いてきます。
さて、あなたが検査をしていたら何て答えます?



突然の質問に「あたふた」してしまうと、余計に怪しまれます。
できれば、事前に回答を用意しておきたいものです。
ちなみにケースバイケースですが、私はこういう場合
「異常かもしれないので一応大きさを測っています。最終的な結果は検査終了後に画像を確認して
検討しなければわかりません」  という感じで答えるようにしています。



もう一つは、検者の顔を見ている被験者がいます。
モニターは観てわからなくても、判っている人の顔を見れば状況がわかるかも知れないからです。



例えば、あなたが超音波検査を受ける事になりました。
初めての病院で、緊張しながら検査室に入ると優しそうな技師さんが検査をしてくれるそうです。
安心して指示に従っていると、突然技師さんの顔色が変わり
モニターを険しい顔で観ながら検査を続けています。
しばらくして、検査が終わるとまた優しい技師さんに戻って「お疲れ様でした。」と言ってくれました。




あなたはどう感じますか?




技師さんの顔色が変わっただけで、「自分の病気は思ったよりもひどいのではないか?」と感じませんか?
検査結果どうなのかその時点ではわからないので、余計に不安が広がってしまうと思いませんか?



検者の顔色一つでそこまで被験者に不安を与えてしまう可能性があるのです。



私の勤める病院では「検査結果を被験者に伝えてはならない」というルールがあります。
検査を終えた被験者は今すぐにでも結果が知りたいものです。
しかも、超音波検査の場合、リアルタイムで検査が行われているのですから
検者は被験者の疾患の状態を把握しているという事を、被験者も知っているでしょう。



検査が終わると、多くの被験者は「何か悪い所はありました?」と聞いてきます。



あなたが、その被験者の主治医で治療の責任があるのであればその質問に答えても問題はありません。
しかし、主治医で無い場合、検査技師などの場合では答えるべきではないと、私も思います。



数年前、私の先輩 (超音波では10年以上のキャリアがある先輩) が乳腺の検査をしていました。
超音波上では異常は発見されず、検査を終了しようとした時
被験者が 「何か悪い所はありました?」 という質問を受けたそうです。



先輩は、もちろん「結果を伝えてはならないルール」は知っていましたが
あまりに思いつめている被験者の様子に同情してしまい 「そんなに心配しなくても大丈夫だと思いますよ」
と言ったそうです。
もちろん、それは被験者を思いやる優しさが産んだ言葉でした。被験者は安心して帰宅していったそうです。



しかし、後日マンモグラフィー(乳腺の単純撮影検査)で異常を指摘され生検(針を刺し直接細胞を採取する検査)
をしたところ、がん細胞が出てきたのです。



被験者は超音波検査の技師に安心できる言葉をもらっていただけに、「癌」と診断されたときのショックは
大きいものがあったでしょう。



後にその被験者は手術を行い、幸い何の問題も無く退院していきました。
私とその先輩はその手術の結果を主治医に聞きに行きました。
結果は超音波では描出できないようなびまん性の悪性腫瘍(非浸潤性乳管癌)だったようです。



先輩は乳腺の超音波検査の時に「見逃し」をしていたのではなく、超音波では描出困難かあるいは
描出不能な疾患に気がつかなかっただけなのです。



受診したその日に何のデータも無かった状態での超音波検査。
びまん性の悪性腫瘍が見つからなくてもなんら不思議ではありません。
超音波検査は万能ではないのですから。



このように、被験者と検者が非常に近い距離で数分から数十分一緒にいるわけですから
検者は常に被験者に対して気を付けていなければいけないのです。