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 16歳 男性


 数日続く腹痛で外来を受診された患者様です。
血液検査をしたところ白血球数とCRPの上昇が認められ、腹部超音波検査を施行する事になりました。


検査をするためにベットに横になってもらい、どこが痛いのか聞くと
「お臍の左側が痛い」との事でした。


検査する前に、「お臍の左側だとすると、左の腎臓や尿管、腸管、膵臓あたりかな?」と思い
左側腹部痛を訴える急性腹症を考えながら走査しました。


ある程度観察しましたが、腹腔内臓器には異常が認められなかった為、
プローブをコンベックスからリニアに持ち替え、腸管の走査をすることにしました。
しかし、腸管の壁の肥厚、蠕動運動の異常、腹水、などの異常は認められず
膀胱や前立腺も観察しましたが、特に異常は認められませんでした。


そこでもう一度圧痛点を聞き、「一番痛いところを人差し指で指してください」と尋ね、
その指を指した場所にピンポイントでリニアのプローブを当てました。
(急性虫垂炎を疑う場合の、病変部を探す基本的な方法です。)


すると、以下のような画像が得られました。




左腎静脈に明らかな拡張は認められないものの、腹部大動脈と上腸間膜動脈の間の左腎静脈は
押しつぶされているように観察されました。



Bモードでこのような画像を描出したまま、カラードップラーをのせると下のような画像が得られました。





腹直筋内に明らかな異常陰影が認められています。
境界明瞭、辺縁不整で内部は不均一に観察される領域が認められ、
その周囲の筋組織のエコーレベルは淡く上昇しています。


大きさは約19×13×16mmで、圧痛点に一致し、プローブで圧迫を加えると病変部が変形するのが観察できます。


続いてドプラをあててみました。




病変部には拍動性の血流信号が豊富に観察されます。


今度は、左右差を観察してみました。




左側の腹直筋は右側の腹直筋と比較すると、明らかな肥厚とエコーレベルの淡い上昇が認められます。
この淡いエコーレベルの上昇は、炎症を伴っている場合によく観察されるもので
今回観察されているエコーレベルの上昇も炎症を反映して観察されていると考えました。


痛みの原因はここで間違いないと確信しましたが、問題はこの病変部の鑑別診断です。
筋原生や神経原生の腫瘍を疑いましたが、圧迫で容易に形状が変化する事と年齢が16歳という事、
Bモードでよく観察すると、病変部の内部のBモード画像が、周囲の筋組織のBモード画像が似ている事、
明らかな左右差が認められ、左腹直筋には炎症を示唆する所見が得られた事、
内部に拍動性の血流信号が多く観察された事、


などから考えて、外傷性の出血が考えやすい、と思いました。


そこで、患者様に何か腹部外傷の覚えは無いか聞いてみました。
すると
「腹部を強くぶつけた記憶は無いが、部活でバレーボールをやっている」とのこと。


筋内出血には充分な理由だ、と考え検査を終了しました。
もちろんレポートには「左腹直筋内の外傷性出血疑い」と書きました。


この後、この患者様は数回 follow up の為に腹部超音波検査を行っていますが、
3回目の超音波検査(期間にして約3週間)で、左右の腹直筋に左右差が認められない程度に回復しています。