超音波検査室 >> 実際の症例 >> 頚部領域 >> 甲状腺
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   甲状腺はびまん性に腫大し、辺縁は軽度の凹凸を伴って観察されることが多い


   甲状腺実質のエコーレベルは正常甲状腺と大きな違いは見られないが
    実質内部エコーは不均一に観察される場合が多く、病期によって不均一の程度は変化する


   甲状腺実質の血流が増加することを反映してドプラにて実質内に豊富な血流信号を認める


   甲状腺が必要とする血流量が増加することにより、甲状腺を栄養する動脈の血流速度上昇を認める
    上甲状腺動脈の血流速度を計測し、60cm/secより早ければ甲状腺機能亢進症を疑う




  バセドウ病は、Basedow氏(1840年)、Graves氏(1935年)が報告した
甲状腺ホルモンの過剰分泌によって甲状腺機能が更新する病態をいう。
一般にバセドウ病という名が浸透しているが、グレーブス病とも呼ばれるのはこのためである。



視床下部 下垂体前葉 甲状腺
TRH 分泌

促進
TSH 分泌

促進
T3、T4
分泌

抑制
分泌

抑制


正常甲状腺では表のように、視床下部、下垂体前葉、甲状腺の間で、甲状腺ホルモンの分泌が
フィードバックメカニズムによって調節されているが、
バセドウ病の病態にある場合、このメカニズムが正常に保たれていない。


バセドウ病は甲状腺のTSH受容体に対する自己抗体を有する自己免疫疾患である。
血中に甲状腺刺激物質である免疫グロブリン(IgG)が
甲状腺細胞膜表面に存在するTSH受容体に対する抗体(TRAb)としてTSH受容体に結合すると
TSHと同様に甲状腺細胞内にその刺激活性を伝達し、甲状腺ホルモンが分泌される。


血中に甲状腺ホルモンが多く分泌されると、通常はTSHの分泌が抑制され甲状腺ホルモンの分泌も抑制されるが
血中に甲状腺刺激物質が存在するため、甲状腺ホルモンへの刺激、甲状腺ホルモンの分泌は抑制されず
甲状腺機能亢進症となる。


バセドウ病で認められるTSAbの産生機序は、T細胞機能活性、B細胞機能促進、自己抗体の分子相同性などが
関与していると考えられているが、解明されていない。



 甲状腺中毒症の自覚症状として、発汗、動悸、暑がり、体重減少、神経質、イライラ感、
排便回数増加、月経過小、呼吸困難などがある。
身体所見として精神不安定、注意散漫、記憶力低下が認められる。
特に、びまん性甲状腺腫、頻脈、眼球突出の所見がバセドウ病に特徴的に見られ、メンゼブルグの3徴と呼ばれる。



 バセドウ病の臨床所見

  1) 甲状腺腫大(97%)
     びまん性、老人では20%で認めない

  2) 頻脈(90~95%)
     心房細動の場合もある

  3) 眼球突出(約50%)
     甲状腺中毒症の中ではバセドウ病に特異的
     老人では出現できない
     悪性眼球突出症となることがある

  4) 手指振戦(75~97%)
     Rosenbach 徴候

  5) 多汗(75~90%)
     皮膚湿潤

  6) やせ(るいそう)(65%)
     多食してもやせる
     若年者では体重増加を示すこともある。

  7) 月経異常(約40%)
     一般に少量、不規則となる

  8) 下痢(10~20%)
     一般に軟便となる
     激しい下痢と高熱は甲状腺クリーゼを示す

  9) 筋脱力(4%以下)
     若年男子に起こりやすい
     Plummer 徴候



 バセドウ病は特徴的な検査所見を示し、これが診断の大きな手助けになる。
典型的なバセドウ病の場合、血中甲状腺ホルモンが上昇しているため、Free T3、Free T4、は上昇し
TSHは抑制されている。
またバセドウ病の血中の自己抗体は約90~95%の症例でTRAbが陽性となり
この自己抗体が甲状腺ホルモン合成を刺激している。



バセドウ病の画像検査としては、超音波検査が最も有用な検査といえる。
甲状腺実質は機能亢進症を反映してびまん性に腫大して観察されることが多く、
甲状腺実質辺縁は外側に凸状の形態が観察されるようになり、
活動期のバセドウ病では実質内部は不均一に観察されるようになることが多い。


甲状腺実質のエコーレベルは大きな変化を認めない場合が多く、
時としてエコーレベルの軽度の変化は認めるが、特徴的なエコーレベルの変化はない。


ドップラー検査では、甲状腺実質の血流増加が観察されるが、ドップラーの設定、感度によって
血流情報は大きく左右されるため注意が必要になる。
甲状腺実質の血流増加がある場合、これをを反映して上甲状腺動脈の血流速度が上昇しており
パルスドプラで上甲状腺動脈の血流速度が60cm/secを超えれば、甲状腺機能更新による変化と判断できる。


ただし、バセドウ病の病期によって、甲状腺機能亢進症の程度、甲状腺腫大の程度、甲状腺への血流の変化、
の状態は変化するので、バセドウ病であっても特徴的な所見が得られない場合もしばしばある。



バセドウ病の診断ガイドライン (日本甲状腺学会 2001)

 a) 臨床所見
   1、頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加等の甲状腺中毒症所見
   2、びまん性甲状腺腫大
   3、眼球突出または特有の眼症状

 b) 検査所見
   1、遊離T4高値
   2、TSH低値(0.1μU/ml 以下)
   3、抗TSH受容体抗体(TRAb、TBll)陽性または甲状腺刺激抗体(TSAb)陽性
   4、放射性ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率高値、シンチグラフィーでびまん性

1)バセドウ病
   a)のうちの1つ以上に加えて、b)の4つを有するもの

2)確からしいバセドウ病
   a)のうちの1つ以上に加えて、b)の1,2,3を有するもの

3)バセドウ病の疑い
   a)のうちの1つ以上に加えて、b)の1,2,を有し、遊離T4高値が3ヶ月以上続くもの


(付記)
 1、コレステロール低値、アルカリフォスターゼ高値を示す事が多い
 2、遊離T4正常で遊離T3のみが高値の場合が稀にある
 3、眼症状がありTRAbまたはTSAb陽性であるが、遊離T4およびTSHが正常の例は
    euthyroid Grave's disease または euthyroid opthalmopathy といわれる
 4、高齢者の場合、臨床症状が乏しく、甲状腺腫が明らかでないことが多いので注意をする



    典型的な超音波所見を示したバセドウ病

    甲状腺腫大があまりはっきりしないバセドウ病

    投薬治療後のバセドウ病