超音波検査室 >> 実際の症例 >> 頚部領域 >> 甲状腺
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   圧痛、硬結部位に一致した領域が低エコーに観察され
     甲状腺全体としては不均一に観察され、地図状、まだら状のエコーパターンを示す


   経過観察の過程で実質内の低エコー領域が大きく移動して観察される(クリーピング現象)
    臨床状態が安定した後も、この低エコー領域は一定期間残存して観察される


   甲状腺の腫大は軽度である場合が多い


   急性期では低エコーで観察される領域の血流低下が見られ、回復期では血流信号はやや増加する


   炎症による両側頚部リンパ節の腫大を認めることがある





 亜急性甲状腺炎は高熱、頚部の疼痛を主訴とする代表的な甲状腺の非可能性炎症性疾患である。
 甲状腺内に多核巨細胞を含む炎症性肉芽腫が形成されるのが特徴である。


 亜急性甲状腺炎を発症した症例の多くに、先行する急性上気道炎様症状、発症の季節的変動、
 各種ウイルスに対する抗体価の変動が見られることから、亜急性甲状腺炎の原因としてウイルス感染の関与が
 あるものと考えられているが、直接的な証明はされていないため、現在のところは原因不明である。


 発症年齢は30~60歳が多く、男女比は1:10と圧倒的に女性に多く
 一般検査では赤沈やCRPの高値をみることが多い。


 多くの症例では感冒様症状の1~2週間後に高熱をだし、頚部に疼痛を訴える。
 発症初期の甲状腺内では限局的に炎症が起こっており、
 炎症の部位に一致して甲状腺は結節状に硬結することが多く、炎症がある部位に限局した甲状腺腫大がみられる。


 典型例では炎症は左右のどちらか一葉にみられ、経過とともに炎症は甲状腺峡部を通過し反対側へと移動する。
 これは亜急性甲状腺炎に特徴的な所見で、クリーピング現象(creeping)と呼ばれる。


 炎症の波及に伴い甲状腺濾胞の破壊が起こることで甲状腺ホルモンが血中に放出され甲状腺中毒症を来たす。
 これにより、心悸亢進、体重減少、多汗などの症状が現れる。
 疼痛強い病期では、下顎部や耳介後部への放散痛がしばしばみられる。


 炎症は通常、1~3ヶ月で無治療でも治癒するが、
 炎症反応や疼痛が強い症例も多く、この緩和のための治療が行われる。
 一般的に甲状腺中毒症は一過性で軽症のものが多く、甲状腺中毒症に対する治療は行われない。


 亜急性甲状腺炎を発症すると
 甲状腺ホルモンが血中に放出され血中甲状腺ホルモン値の上昇、TSHの抑制がみられる。
 炎症は軽度のものも多く、甲状腺中毒症状を呈する例は約20%といわれ、
 炎症が沈静化すると一時的に甲状腺機能低下を示し、その後寛解する。
 再発例もしばしば見られ、完全寛解後10年以上経過してから再発することもある。


 超音波所見は、炎症、圧痛に一致した部位に低~ほぼ無エコーで観察される領域が、
 地図状、まだら状に観察され、経過観察に伴いこの低エコー領域は大きく移動し、
 峡部と通過して反対側に観察されることもしばしばある。
 (亜急性甲状腺炎の特徴的な所見でクリーピング現象と呼ばれる)


 亜急性甲状腺炎が寛解すると最終的にこの低エコー領域は消失するが、
 臨床状態よりも消失が遅れて観察されることが多く、症状が改善されていても低エコー領域が残存する場合がある。


 炎症を起こしている部分に限局して甲状腺腫大が起こると考えられており、
 甲状腺自体の腫大の程度は軽度である場合が多い。




   日本甲状腺学会による亜急性甲状腺炎診断ガイドライン(日本甲状腺学会第7次案)

 
 A) 臨床所見
     有痛性甲状腺腫

 B) 検査所見
     1、CRPまたは赤沈高値
     2、遊離T4高値、TSH低値(0.1μU/ml以下)
     3、甲状腺超音波検査で疼痛部に一致した低エコー域

  亜急性甲状腺炎
     診断の確定     A)およびB)の全てを有するもの
     疑いとするもの   A)とB)のうち1、と 2、を有するもの


  除外規定
    橋本病の急性増悪、のう胞への出血、急性化膿性甲状腺炎、未分化癌


  付記
    1、上気道感染症状の前駆症状をしばしば伴い、高熱をみることもまれではない
    2、甲状腺の疼痛はしばしば反対側にも移動する
    3、抗甲状腺自己抗体は原則的に陰性であるが経過中弱陽性を示すことがある
    4、細胞診は多核巨細胞を認めるが、腫瘍細胞や橋本病に特異的な所見をみとめない
    5、急性期は放射性ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率の低下をみとめる。



    クリーピング現象が観察できた亜急性甲状腺炎

    著明な改善をみた亜急性甲状腺炎

    地図状エコーが明瞭に観察できた亜急性甲状腺炎